2015年2月26日木曜日

台北の逢沢りく ~漫画「逢沢りく(ほしよりこ・作)」




朝のテレビ番組で「子供の注意の惹きつけかた」の特集をやっていて、大阪の保育園が紹介されていた。
例えば伝えたい内容を逆さ言葉にする。子供がウキャウキャと嬌声をあげて走り回るさなか、保育士の男性が声をはりあげる。

「はいきいて~。みんなの大好きな~ る・け・こ!!!

すると、部屋中をぐるぐる駆けまわって「ちびくろさんぼ」の虎バター状態だった子供たちがピタッと立ち止まり、いっせいにズサーっと「コケ」た。
さすが大阪・・・・
あんなに小さいころから吉本新喜劇が血となり肉となって手足や脳をつくってるんだ。
正直に告白する。
こういうときワタシは何ともいえない羨ましさに駆られる。
もちろん、大阪人にも「オモンナイ」人がたくさんいるのは承知している。


ワタシにとって十数年を暮らした京都は青春の地で第二の故郷だ。
ある程度は関西訛りも身について、関西出身でない役者さんがテレビドラマでしゃべる関西弁のおかしさもわかる。でも小さい頃からそこで育ったわけではない「エセ関西人」の自覚ぐらいはある。
で、「きょうの猫村さん」で老若男女をトリコ仕掛けにしたほしよりこさんの新刊「逢沢りく」を読んでいて、忘れていた「関西人コンプレックス」が頭をもたげた。それほど主人公の少女「りく」を取りまく関西の人たちが、メッチャクチャに暖かくて素敵で「オモロイ」からだ。


東京でアパレル関係の会社を経営するかっこいいパパとパーフェクトなママを持つ、14歳の誇りたかき美少女「逢沢りく」。
表面的には理想的な家庭である逢沢家だけれど、パパには愛人が居る。
おしゃれなママはグロテスクなほどに潔癖症で頭でっかち。娘に与えるものぜんぶを自分好みにコントロール出来るとおもっている。そんなママは関西弁や関西も大っ嫌いで、だからりくも自然と関西を憎むようになった。

りくが蛇口をひねるように流す涙は、まわりの人を魅了する。
でもホントは嘘泣きだ。
野良猫も、パパの愛人の嫌がらせにより家で買われることになった「鳥」(インコ)も動物は皆りくに対して敵意をもつ。
ある日インコを絞め殺そうとした問題行動を咎められたりくは、会ったこともない関西の親戚のところにインコと共に預けられてしまう。そして大嫌いな関西で、りくは徹底的に追い詰められてゆく。


「こっち座りよし、やっぱこっち座りぬくいし」と座布団を持ってウロウロするおばさん。
じゃれつくインコに「焼き鳥にすっぞ」と笑いかけるおじさん。関西人の本気と冗談のみわけがつかない。息子の弁当にはお好み焼きがギュウギュウに入っているし、お土産の赤福をこぞって分け合う。夜は京都が舞台のサスペンス・ドラマを見て、ロケ地があっちっこっちする矛盾を指摘しながらワイワイと夕食をかこむ。

今までのようにじぶんっぽく、いられない。嘘泣きもうまく出来なくなった。
絶妙にぬるくていい温度のお風呂からずっと出られないような、もしくは干したての羽毛布団のなかでもがきつづけるような生温かい善意と関西弁の嵐のなかで、りくは思う、


「わたしはぜったい関西になんか馴染まない、ぜったい関西弁なんかに染まらない。」


それに反して、りくといっしょに来たインコは関西の家の人々にどんどん懐く。病気がちの少年・時男に「ちいぼ」という名をもらい、時男の肩や頭にのって「キュロキュロ」と鳴くようになる。
東京では、パパから世話を押しつけられたママが「お世話しなきゃ死んじゃう」から仕方なしに世話し、無関心から名前さえ付けてもらえなかったちいぼ(インコ)
読んでいるうちにハタと気づいた。そうか、ちいぼりくの分身=隠された心なのか。
かつて、じぶんの手で締め殺そうとしたのはりく自身だったのだ。
その後、りくが大阪の家の温もりやプライドを揺さぶる出来事に追い詰められたとき、ちいぼは関西弁でお喋りさえ始める。
まるで、生きることに無感情だったりくの心が時夫の病気をとおして死と悲しみの片鱗に触れ、ちいぼとともに開かれた世界にむかって共鳴をはじめたようだ。
ラストのカタルシスついにりくは大嫌いな関西弁を時夫のために口にし、大声をあげてホンモノの涙を流す。この世にふたたび生まれでた赤ん坊のように泣きさけぶ、「陸」「沢」「逢」う場所で。


これは大雑把にいえば「思春期の魂の成長」をテーマにした作品だ。そういう物語はこの世に沢山あるのだろうけれど、こんなにも「心地良い」作品に出会うのは初めてだった。そしてやっぱり、14歳って大変な時期だ。息子も14歳にいつかなる。こわいような気がする。


さて、もうひとつ思い出したのは台北に来た時期のワタシだ。
台湾人と大阪人はよく似ていると言われる。
あけっぴろげで大袈裟でおせっかいで大きな声でよく喋り、ものすごく温かい。

大体住み始めて一年から一年半あたりに「台湾イヤイヤ期」がくるらしい。
わたしにも来た。まわりでも、国際結婚・駐在に関わず多くの人が経験している。
台北の何もかもが嫌でたまらなかった。食事も、人の大雑把さもすべて気に触った。
じぶんの意思で来たと言われればそれまでなので、人に言うことも気が引けた。しんどかった。この時期に精神的に参ってしまって帰国する人も少くなくないと聞く。それでも友達ができて好きな店も増えるうちにゆるゆると馴染んだ。
慣れた理由のひとつに、言葉の習得の問題は大きいかもしれない。

にしても、りくのその後が気になる。
あのまま大阪に住みつづけて、そのうちもしかして大阪弁で「せやなあ」とか言ってるのだろうか。りくが変わったようにママも変わり、相変わらずブツブツ言いながらも関西に遊びに来てタコ焼き食らってたら面白い。
最初は気持ちわるいなあと思っていたママのこと、下巻でとっても好きになった。女は時として、大人になったって思春期のアレコレを引きずって生きているものだ。


それにしても、ほしよりこさんという作家の才能は恐ろしい。
まずちいぼのお喋りがすごい。独特のタッチで手書きされた文字は紙面からボワボワと立ちあがりそのまま音楽となって流れだすようで、美しい詩のレベルにまで昇華されている。
そして紬のように繊細に織りなされる関西弁の会話。ウィット。観察眼。
誰かが「関西弁の名手といえば、小説家の野坂昭如、黒川博行、今江祥智」と挙げていたけれど、これからは「ほしよりこ」も加えるべきだろう。






        

(追記)
このブログを書いた後、「逢沢りく」が2015年の手塚治虫賞を受賞!
なんとも嬉しい出来事だった。



























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